aki100mac’s blog

日頃考えていること、体験したことをブログしています。

がんの末期、自宅で死ぬことを支えるということ

昨日になりましたが、2022年7月11日(月曜日)、暑い日でした。。いつものように、午前の病棟回診を終え、いざ街へ。平成筑豊電鉄で、田川市立病院前駅から直方方面へ一駅分の距離ですが、訪問看護軽ワゴンで、患者さんのお宅へ伺いました。かなり衰弱が進み、これまで内服できていたタペンタドール塩酸塩の錠剤の嚥下が無理になっていました。このことを予想していましたので、一度病院へ戻り、塩酸モルヒネセレネース、それに既に死前喘鳴が出現していましたので、ハイスコ注を含めたスペシャルメニューのCSI(持続的な皮下注射)システムを携えて、お宅へ戻りました。訪問看護師が皮下注射をセットしているありだ、この前からたびたび話題に上っていましたお宅のピアノへ向かいました。バッハやショパンピアノ曲で、気分が軽くなるような楽曲を選び、弾きました。またジャズの譜面を適当にアレンジして即興で奏でたり・・。お部屋のエアコンは夫人によって快適な温度でした。患者さんは多趣味な方で、MRJの縮尺模型などが所狭しと飾られていました。その方の歴史を感じながら10数分演奏しました。
 終わりに、患者さんのベッドサイドへ。少しモルヒネが身体に入り始めていて、呼吸が楽そうでした。ニッコリ微笑んで、「ありがとうございました。ピアノは、(田川市立病院の)緩和ケア病棟で、使って下さったら嬉しいです。」と仰いました。そこで、お宅を辞し、病院へ戻り、疾風怒濤の午前は終了しました。そして自宅で遅めの昼食を食べ終わったタイミングで、訪問看護師から私の携帯に連絡がありました。「奥様(もと某国立病院看護師、元師長さん?)から今連絡があり、呼吸停止したとのことです。」と。私は2時から緩和ケア内科外来でしたが、少し遅れることを緩和ケア認定看護師に伝えて、お宅へ伺いました。奥様は、「開始してからしばらくはうとうとしていたのですが、突然、苦しい❗と言い始めて、レスキューを1回して、しばらくしてもう一度したところで、安らかになりました。私も傍でうとうとしていて、ハッと思い横を見たら息をしていませんでした。」とのこと。お顔は柔和ででした。
 妹さん夫妻も近所から駆けつけていました。
「本当にお世話になりました。ありがとうございました。」と感謝されました。
 患者さんとは2週間前の緩和ケア外来で初めてお会いしました。その時に宮崎市から出てきて付き添った次男さんにお亡くなりになったことを電話で伝えました。聞けば、彼は元音楽療法士で、某ホスピスで勤務経験があり、更に東北大学医学部大学院で、音楽療法関係の学位をとっておられるとのこと。今回のことが縁で、これから当院の緩和ケアに、コミットしてくださるとのこと。その手始めに、彼が東京の音楽大学受験の際に、使ったというヤマハの最高峰のアップライトピアノを、寄贈していただけることになりそうです。
 その緩和ケア内科外来でお会いしたとき、既に身動きが取れず、自分で立つことも座ることもできず、トイレにも行けず、お箸も握れず、何も自力ではできませんでした。既に死相が出ていて、もの凄く痩せていました。
 私は次男さんと奥様には、「保って数日から、どんなに身体が頑張っても2週間くらいだと思われますが、どうしますか、彼が頑として入院を拒んでいますので、自宅での看取りになりますが、いかがいたしましょうか?」とお訊ねしました。すると、奥様も、次男さんも、それでしたら、思いを叶えさせたいと思いますので、宜しくお願いします、だったのですね。
そこまで、してやれるというのは、患者さん本人とご家族との人間関係がとても良かったし、その願いを叶えたいという共通の認識があり、更に後で判ったことですが、癌末期の緩和ケアがどんなものかをご家族が知っていた、そこに尽きますね。
 反対に、生にしがみつき、判っているようで実は全然現実が判っていない人たちがいかに多いか。毎日のように愕然としています。ですから、このような方々に出会うと、「よし、まだまだ頑張るぞ❗」と勇気が出てきます。
 神様から私たちへの贈り物、ギフトですね。
ひと言天におられる神様にお祈りいたします。
 「感謝します。このピアノを、患者さんそしてご家族のご意志に従い、この地域の方々のために使わせていただきます。ありがとうございます。
 また、愛する大切な方を亡くされて悲しみにくれておられるご家族の皆さまに、大いなる慰めが与えられますように。」
 看取りの後、お体を綺麗にし、エンゼルケアを終えた訪問看護師たちは、次の患者さんのお宅へと向かいました。
 私は午後の外来に向かい、そこで、今度はこの方々とは真逆の、あっと驚くようなことが待ち受けていました。このように、毎日厳しい暑さのもと、がんの末期がどんなものなのか、ほとんど理解できていない方がたのため、奮闘しています。
 ただ言えますのは、どんな方々でも、ホスピス・緩和ケアプログラムに入ってしまえば、皆さん、その恩恵を受けることが可能だということです。
 しかし、そのために、スタッフは大変な労苦をしています。どうか世間の皆さんには、ホスピス・緩和ケアは決して甘い世界ではないこと、生やさしい気持ちではこのことを職業にはできないことを判っていただきたいな、そう思います。

 

緩和ケア病棟に寄贈していただくYAMAHA PIANO